その2 二日目〜三日目朝


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時刻表

東京港十号埠頭 発
28日19:00
大島運輸(フェリー)
志布志港(鹿児島県) 着
29日21:0023:40

Shooting Star...

深夜2:45分。何となく目が覚めたので、船室から出てデッキに行ってみる。さっきまでの陸の灯はどこへやら、海の道を示す灯台が遙か向こうに見えるのみ(2,30km向こうかなぁ)。残りは、「これを『黒』と呼ぶんだろうな」と思われるほどのぬばたまの闇。
風が相当強いので肩を縮こめながらスカイデッキ(屋上)にあがってみた。そこに待っていたのは…

満天の星空。

そりゃそうだよね。太平洋の上だもの!
しばらく眺めていたが、星が多すぎてどれが星座か分からない!(笑) 10分も見ていたけれど、結局「天の川(確かに天の川だ)」と「夏の大三角形(確かに天の川を挟んで三角だ)」以外は分からなかった。二等星が混じると混乱するんだよな〜東京で育つと。
すると、つっ…と流れ星が尾を引いて南の空に流れた。本当に帚星であった。
3:30分、寒いしそろそろ雲もかかってきたのでデッキからロビーに戻る。読みかけの小説を読み終えて、風呂にもう一度入って寝た。


空の碧、海の翠

6:45分。おはようございます。現在、潮岬沖合を航行中。曇ってるな。船は重くて大きいだけあって、ほとんど揺れない。

午前中は甲板の上で昼寝。日差しは強いが風も吹いているし、ふしぎにさわやかなので汗が出ない。東京が嘘のようだ。外は見渡す限りの海原で天気はよい。台風はまだ全然こちらまで来ていないようだ。

12:30分。室戸岬の数km沖合を通過。久しぶりに陸地を見た。このあたりは陸に近いだけあって船はけっこう多い。他の船を見ると、波間で翻弄されるように大きく揺れている。実はこのフェリーが大きいだけで波はかなり高いのかもしれない。

さて、そろそろレポートを書かなきゃ。記号論のレポートがメール提出だったので「船の中でもできるさ」といって残してあったのだ。情報と記号論を題材にしたレポートということで、タイトルは「XMLが情報記号学を変える」に決定。タイトルさえ決まればあとはでっち上げるだけさ。
…XML, HTML, LaTeX, Java Script, Java, CSS, SmartDoc…と使いまくって8kBのソースが完成。走れ炎のコンパイラー…ってな感じで、1時間で完成。結局圧縮して60kBぐらいのレポートになった。わざわざWebの技術を使っているのは、メール提出のレポートをプレゼンテーションらしく見せるためである。

書き終わってふと甲板に出る。
…どこまでも広がる群青の波間に飛び魚が跳ね、空を見上げるとどこまでも、薄い雲の白と「空色」が続く。
こーゆーときにいるんだよね、「あぁ、水平線まで続くこの空と海に比べれば人間なんて、こんなにも卑小な存在だって思うの」とかいってる『理屈の多い子供』。偽善者が無駄なニヒリズムに走りおって!
…とか考えてはいるけど、人間自体が云々には言及しなくても、「あぁ、水平線まで続くこの空と海の間で『秀丸エディタ』にしこしこHTMLを打ち込んでる私はなんだか情けない」とは確かに思えてくるわけで。

だからパソコンの電源は落として、しばらく海風に吹かれながら海の上を眺める。




いい気分。やっぱしあとは、「風になびく白いワンピースと大きめの帽子をつけ、右耳の前で髪をかき上げながら振り向く美少女(髪は揃えたショート)」ですねぇ(以下略)。高校時代は「眼鏡フェチ」だとか根も葉もないことを書き立てられたりした私だが、妄想や夢に眼鏡っ娘が出てこないあたり、きっとこれは私がまともな人間である証拠に違いない。うむうむ(←いっぺん死ね)。

そのまま海を眺めていくと、太平洋に日が沈んでいく。海全体に陽光が反射してこれもまた、言葉を絶する美しさであった。

夕方、部屋に戻ると「だぁ!だぁ!だぁ!(教育テレビ版)」がテレビに映っていた。こんな四国の沖合でも(ノイズだらけでかろうじて、だが)映るとはさすがNHKだよね。「だぁ!〜」みたいな、何かが起こりそうでばたばたして、結局何も起こらないアニメってのは安心してみられるからいいですわ。見たことない人は、まぁどうでもいいけど…一度チェックしてみてくれ(NHK BS2 火曜18:00 / 教育日曜18:00)。

志布志港到着は定刻2時間強遅れの23:40。そのまま旅館に向かうことにした。船の乗務員に聞いた情報通りに行くと…方向が逆だった。まあ、いつものことだが時間はいつの間にか24:00。やばいな。気がつくと、志布志駅の逆側にある「国鉄志布志線」の廃線跡の鉄橋・県道を渡る橋桁を思いがけず見つけてしまった。ロマンに浸りたいけど今は夜の12時なのよ〜。
逆方向に戻り、旅館を発見!! ここでピンチが訪れた。旅館の電気が全部消えている!! 仕方ないので正面に回り、扉をどんどんとたたく(ぼろい旅館だからインターフォンなんかねーぞ)。「ごめんくださーい!!」と叫ぶ。5分くらい叫ぶ。なしのつぶて。 しかたないので近くの電話ボックスを探しに行き、そこから旅館に電話した。201回コールしたけどだめだったのでとうとう断念。

…というわけで、今日は「駅寝(駅で寝ること)」に大決定!!(汗 汗 汗

じょーだんじゃねーぞ。

…でも仕方ないよな。そして駅に向かう私。現時刻は1:10(今打ってるのよ、私、駅前で)。志布志駅というのはものすごーーーーーく小さな終着駅で、無人駅なんです。翌朝の始発列車に乗る乗務員が泊まるための事務室(電子レンジとかあるの)があるけど、それだけ。だから、どうにか寝ることができるわけ。
トイレの掃除用電源でパソコンを充電して、今これを打ってるんですよ。満天の星空の下でね!!

嗚呼、モバイルコンピューティングはこうやって極めるものなのね!!(あー絶対違うよ!)

今日の私の「志布志駅で駅寝しつつモバイルコンピューティング」は私の人生の中で間違いなく刻まれる思い出でしょうね。

疲れたので俺は本気で寝るぞ。駅で。ではまた明日もまたおはよう!!

たんけんひとのまち

…朝2:30。寝られないし、トイレで充電してるパソコンと明日のバス出発の停留所が気になって仕方がないので起き出し、夜の町へバス停探しに行く。
しかし、志布志の町は大きい。駅は小さいが、町自体は何でもある。飲み屋・スナックはそれだけで商店街3つ分ほどもある。
バス停を探していると、駅前のタクシー営業所の前で、Yシャツ姿でちょきちょきと雑草を刈っている老人に会う。今2:40だよ。あやしいなあ。…と思いつつ声をかけたら、とても気さくでいい老人である。志布志で昔は大型トレーラーの運送業をやっていたが、作業中に4mの荷台から落ちて怪我をして挫折し、今はタクシー運転手をやっていること、この駐車場は全部彼が整地して手入れしたこと、田舎町のタクシーは3日に一度24時間の当直があって、8日に1度しか休みがないのに、給料が10万強〜8万程度にしかならないこと、妻と共働きなのに妻より稼ぎが少ないくせに疲れること。

ここら辺まで話したところで、空を見上げると東の空の普段星がない部分にひときわ明るく輝く肌色の星が見えた。しかし、なんだか様子がおかしい。3方向に尾を引きながらふらふらしつつ、星としては尋常でない速度で上空へあがっていく。

私「あ、あ、あれって…」
運転手「ああ、あの下に火葬場と墓地とゴミ捨て場があったんだよね。」
私「じゃあ…」
運転手「そう、人魂よ。俺の子供の頃はあの下に住んでたからよく見たよ。南の夏はよく出るのよ」

まさかねぇ、九州まできて本当に(本っっ当にだよ、信じてないだろそこの君。写真も撮ったぞ)人魂を目にするとはね。

…と感慨を深くした後、さらに老人の聞き手となって私は彼の思い出話と愚痴から町の実体を探ろうとした。話はさらに1時間つづく(口数の多い人でよかったよ〜)
これだけいろいろそろっていても町からは若者がどんどん出ていってしまうこと、もともと志布志駅はタクシー営業所の真ん前にある巨大なターミナルで、機関庫に蒸気機関車(註:主にD51やC58などでしょう)が出入りして石炭の山があったこと、鉄道の廃止でターミナル駅自体がなくなり、日南線のホーム一本だけをのこして新しい小屋をつくり、寂しい駅になってしまったこと。タクシーを流しても無駄だからずっと電話を待っているけど一晩中何もこないときもあること、電車も同様に人が乗らないで到着することも多いこと、昔の大隅線が駅前通からのびてどういうコースをとっていたか(←重要な情報だ!)、途中の鹿屋に旧日本軍(もちろん自衛隊)の基地、さらにその向こうの某所(さすがにWebには書けない)に自衛隊の潜水艦秘密基地があること(!)、志布志線と代替バスコースの関係など。夜中は暇なので老人はひたすら芝を刈りつつ、私の質問に応じてくれる。

ふっと気がついて東の空を見上げると、ひ、人魂が二つに増えているよ!!! これで私も納得した。あれは人魂だ。どうやっても星と説明はできないし、飛行機はどろんとした尾は引かない。それにあれは火葬場の跡の上空(数百m)。燐の成分がこの温度で上空にあがり、自然発火してもふしぎではないからね。

さて、老人は疲れた様子。まあ24時間ぶっ続けの勤務(←労働基準法大丈夫か?)してりゃ当たり前ですわ。私も疲れたので二人睡眠することに。彼は事務所で、私は彼の「ミラ(自家用軽自動車)」を好意で貸してもらい、その中で寝ることにした。いやぁ、助かったよ。ちなみに今は4:48。ミラの中で打っております。