その7 七日目


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時刻表('01/08/03)

綾部発
6:14
舞鶴線(115系3連)
東舞鶴着
6:40
6:50
小浜線(キハ58+28)
敦賀着
8:59
9:10
北陸本線(419系3連)
福井着
9:58
市役所前発
?
福井電鉄
花堂着
?
越前花堂発
13:10
越美北線(キハ120単行)
九頭竜湖着
14:31
14:40
JR東海バス
美濃白鳥着
15:25
16:33
長良川鉄道
関着
18:07
18:12頃
名鉄美濃町線
新岐阜着
19:25頃
岐阜発
19:43
東海道線新快速(313系4連)
大垣着
19:54
20:30
東海道線(美濃赤坂線)(313系2連)
美濃赤坂着
20:37
20:48
東海道線(美濃赤坂線)(313系2連)
大垣着
20:54
22:51
東海道線(165系+167系 8連)
東京着
4:47

綾部の朝

結局ほとんど寝ないうちに4:30頃福知山に到着。あらかじめ車掌に「起こしてくださいね」と頼んでおいたので、わざわざ起こしに来てくれた。昨日のことがあるからね。これで大阪まで行っちゃっても旅行を続けることは簡単なんだけど、急行は青春18きっぷの対象外だから極力急行に乗る区間は短くしなければならないわけ。だから昨日寝過ごしさえしなければ浜坂までは終電で行ってそこから「だいせん」に乗るつもりだったのだ。いやぁ、車掌が起こしに来てくれるなんて人数の多い「ムーンライトながら」ではあり得ないかも。

さて、福知山に降りて乗り継ぎの山陰線ホームへ向かう(「だいせん」はここから、私の嫌いな福知山線を通って大坂へ出てしまうのだ)。すると、止まっているのは何とも愛らしい115系切り妻改造車2連。115系ってのはいわゆる湘南型の中距離電車なんだが、もともと長い編成で運転されるように作られたため、今のように乗客が少ない時代には中間車が余ってしまうのだ。そこで、中間の電動車に無理やり運転台をくっつけたのが「切り妻改造車」である。普通の湘南型って頭が丸いじゃないですか(東海道線とか)。でも、この切り妻車の先頭っていうのはもともと車両の間の部分だから垂直なのね。これが何とも愛せるわけよ(写真)。北陸や東北にも愛すべき切り妻車がいろいろ走っているので、またあとで紹介しよう。

ま、とにかくその切り妻車で綾部へ向かう。綾部は山陰線と舞鶴線の分岐点。ここから私は若狭湾の海岸線に沿って福井へ行くつもりである。普通の人は福知山線で大坂へ出て、そこから東海道線→湖西線→北陸本線で福井へ出るんだろうが、いやいやそんな、とんでもない。やはりここは男として舞鶴線→小浜線→北陸本線で福井へ出るのが正しい。何しろ昔からの街道筋だからね(←気動車に乗りたいだけです、ごめんなさい)。

とはいえ、舞鶴線の始発は6時過ぎ。これから1時間ほど綾部で時間をつぶさなければならない。駅舎は新しいコンクリート造りで、駅前には国道が通っている。
が…これだけ有名な町でありながら、コンビニが全然ない。商店もないわけじゃないが、少ない方だ。さて、どうやって朝飯を調達しませう。
と思っていると、自転車でけだるそうに右へ曲がっていく若い女性を発見。これは「朝早く目が覚めた or 夜更かしして結局眠れなかった ので、朝の風に吹かれつつ暇つぶしに雑誌を立ち読みしに行く」に違いない! と勝手に推測し、女性の通った道を行ってみた。案の定24時間営業のスーパーを発見。ついでに雑誌を立ち読みしてる彼女も発見。ふふふ。予想が当たると気持ちいいものだな。
このスーパーはいわゆる普通のスーパーなのに、24時間あいているらしい。冷房も照明もコストがかかるだろうに。結局ペットボトル(1.5l)のりんごジュースとレーズンバターロール(188円)を購入した。もっと弁当とかサンドイッチとかの方がいいけれど、ここはスーパーだからしょうがない。
駅前に戻り、駅前広場のベンチでレーズンバターロールと1.5lのりんごジュースで朝食。通行人はほとんどいない。なんかすごくわびしいねえ(←自分が)。

6時もすぎたので、福知山から来た東舞鶴行き115系(3連)に乗り継ぐ。これは切り妻ではない。東舞鶴までは電化されているのだが、そこから先、敦賀までの小浜線は非電化区間となっており、キハ58+28の天国となっている(58+28しか走ってない)。小浜線は現在電化工事中。数少ない、西日本地区のキハ58の楽園も近代化の危機に瀕しているのだっ。--なんか矛盾してるけど。
さて、東舞鶴は高架駅で街もそれなりに大きそうである。敦賀方面へ向かう高校生と、小浜高校など地元の高校へ行く高校生で小浜線の車内はかなり混み合っていた。しばらく列車は田園地帯を走っていくが、やがて海沿いを走るようになる。若狭の海に映える朝日もなかなかきれいなものである。若狭和田の駅はすぐそこが波止場になっており、漁船以外にも美しい船が鮮やかに見えた。まあ、若狭湾はリアス式海岸だから海岸線の出入りが激しく、ずっと海沿いに走ることはできない。海とごつごつの海岸線を遠くにのぞみつつ、田圃の中を一直線に快走していく。
途中でどんどん小浜高校の生徒が乗ってきた。こんな休みの日に朝早くから乗ってくるのはたいがい体育会系。男子はおおかたいがぐり頭で、女子はショート:左右にまとめた肩丈の髪=1:1ぐらいである。そしてみんな申し合わせたようにYシャツ&ブラウスの裾をだらしなく出しっぱなしにしている。
なんつーか、没個性的な奴らだ! (小浜の人ごめん)
それに、朝っぱらからわざわざブラウスの裾を出して登校することないのにね。 ハードなスポーツをいっぱいやったあとの帰り道なら別に何の問題もないんだけど、これはなんだか白いブラジャーの紐が思いっきりはみ出したキャミソールみたいに、ちょっと目を背けたくなるな。

…余計なお世話ですね。分かってます。

途中で「美浜」駅を通った。あの美浜原発があるところだが、一面の水田の中にぽつんとあるだけの駅で、原発がありそうにもない。実際若狭の原発は市街地から10km以上離れたところにあるのだけれど。

そんなこんなで終着駅の敦賀に到着した。右手から湖西線が接近すると、接続列車のスーパー雷鳥が併走する。どちらの列車も定刻である。恐るべき正確さだJR。敦賀駅でのスーパー雷鳥の停車時間なんて45秒〜1分台ぐらいだろうから、あと数十秒このローカル小浜線が遅れたら接続失敗ってことになるよね。
※小浜線とスーパー雷鳥のホームは隣同士なので数秒で乗り換えはできる。

敦賀ではただ列車を乗り換えるぐらいの時間しかない。いやはや、ずいぶん大きい駅のように感じる。

乗り継いだ福井行きは、419系の3両編成。419系も長い編成をぶつぶつ切って、中間車に運転台をくっつけて作ったリサイクル電車である。しかし、この車両の魅力はもともとが寝台特急であるということ。

鉄道ファンでない人のために説明すると、ひと昔まえに「寝台特急『電車』」というものが全国的に走ったことがあるのね(581系・583系。「ゴーパッサン」などと呼ばれる)。昼間は一見普通の特急電車に見える車両の内装にいろんなギミックがあって、寝台や梯子が隠されているわけ。で、それをがたがたと引き出して組み合わせると、座席が下段寝台に変形して、中段・上段寝台がセットされて、全体に梯子とカーテンがセットされて、数分で寝台列車に早変わりしてしまうという電車である。たぶん設計するのは大変だったんだろうな。
そして特筆すべきは「電車(交直流対応)」であるということ。全国の電化区間なら機関車なしでどこへでも運転できる。寝台を畳めば普通の特急電車なわけだから、寝台特急として行った地域で昼間も休みなく特急として無駄なく運用できる。
寝台特急「はくつる(上野→東北本線→青森)」「ゆうづる(上野→常磐線→東北線→青森)」「月光(新大阪→博多)」などといった花形列車で長年活躍した。

とまあ、一見万能の車両だったわけなのだが、

  • 寝台用の装備の収納スペースが多すぎて車内が狭い。
  • 昼間は特急になるとはいえ、所詮寝台に座っているようなものだ。
  • モーターのついている電車より、モーターなしのいわゆるブルートレインの方が乗り心地がいい。
  • 整備が面倒。
というような理由で現在は寝台急行「きたぐに(大阪→新潟)」以外は全く使われていない。
要するに高度経済成長の遺物(≒男のロマン)な車両なのだが、特急に使うのはやめたにしても「全国どこでも走れる(最高時速130km/h)」万能の車両をみすみす廃車にするのは惜しい。
そこで考えられたのがぶった切って普通列車にしようという発想。特に北陸・湖西線は途中にデッドセクションがあり、この車両はデッドセクションもクリアできるから便利なのだ。…ということで、現在敦賀のあたりで走っている各駅停車はほとんど583系改造車=419系なのである。
ま、私は昔この車両の兄弟の715系(東北用。交流オンリーに改造されている)に乗ろうとしたら、ものすごく臭いトイレの排気口の風が顔に直撃したことがあってちょっと素直に愛せないところもあるんだけどね。

車内にはいると、やはり狭い。3段の寝台をつけるために制限車高ぎりぎりで設計されているから天井は高いんだけど(通勤電車の広告の上にさらに1m強のスペースがあると思えばいい)、寝台が入っている部分が撤去されていない(!)ので(写真)、椅子に座っても上から重圧感を感じる。たぶんあの鍵を開けたら中にベッドが入ってるんだろうな。
それに、さすが寝台列車用の窓。高さが低くてちゃんとカーテンまでついている。
また、一両あたりの長さが20mなく、もともと特急用のデッキがあるので客室が短い。
てな感じで違和感がいっぱいだ。あたりを見ていて飽きない。…けど、今日は寝てないので福井まで寝ていくことにしますわ。では少しおやすみなさい。

走る骨董品(^^;)福井電鉄!

福井に着いた。時間は3時間ある。さあ、何をしよう?
  • 永平寺へ行く(時間が足りない)。
  • 芦原温泉へ行く(時間がぎりぎり)
  • 西武デパートへ行く(何しに?)
ということで、西武デパートに決定(苦笑)。本当は温泉に行きたいんだけどね。
まっすぐ紀伊國屋書店へ直行。先月忙しくて読めなかった雑誌を全部立ち読みする。読み終わったところで漫画を一冊買って福井電鉄の乗り場へ急いだ。途中で見た土産物の「雲丹(ウニの塩漬)」は三大珍味の一つ。25g 4000円、140g 15000円だそうだ(しかも桐箱入り)。高いね。
この福井電鉄、福井市内は路面電車、市街に出ると武生まで専用軌道を走る列車である。福井電鉄で花堂[はなんどう]まで出て、そこからJRの越前花堂駅まで歩き、「越美北線」に乗り継いで九頭竜湖に出る計画だ。
越美北線は福井から発車するから、本当はこんなことをする必要はないんだけれど、JRが決めている越美北線の起点は無人駅の越前花堂駅。どんな駅か確かめて、かつ福井鉄道まで乗れるなら、一石二鳥だからね。

駅に着くとちょうど列車がやってきた。近づいてくる列車を見て仰天。路面を走ってるけど路面電車ではない! 路面電車ってのは普通バス程度の大きさになってて、地面から一歩で乗れるようにできてるんだけど、この列車は普通の電車だ。古ぼけた巨大な図体を路面に揺らしてホームへ入ってきた。海外のホームにいるみたいでなんだか怖い。しかも入り口が私の腰ぐらいの高さにあるんですけど。どうやって乗るのよ(笑)?
と思っていると、ドアが開くと同時に電車の入り口から折り畳み式の踏み台が自動で出てくる。おお、すげえ。北陸の暑さと路面の照り返しと、電車自身の熱気で鉄製の踏み台も柔らかくなっていた。乗るとたわむ。

列車は2両編成で、私が乗った車両には「モハ80 昭和30年」という刻印が。ま、まさか…まさか! 鉄道ファンのあこがれ、当時の花形湘南電車の80系か? と思い、年甲斐もなく興奮して係員に訊いたところ、これは福井電鉄オリジナルの80系だとのこと。なんだ、そうだったのか…と、右を見るとすれ違う電車。あれは…あ、あれは1960年代に廃車になったはずの京王帝都車? 向こうを見ると、あ、あれは…あれは昔の江ノ電か(確認はできず)? ふえ〜っ、これはすごいよ。40〜50年前に各地を走っていたはずの車両が当然のように路面を走っている。おまけに鉄道会社はごちゃごちゃ。まるで博物館の中にいるようだ。

市街を抜けると専用軌道(普通の線路)に入って武生へ。すぐに花堂の駅に着いた。ここは普通のホームだからステップは出ない。降りると、激しい日差しと照り返し。九州や南四国の暑さは、単純に日差しが非常につよいためだが、ここの暑さはちょっと違う気がする。なんだか逃げられない感じだ。
越前花堂駅はここから北へ行けばいいはずだ。とりあえずアスファルト道路を北へ歩いていく。朝1.5l買ったジュースもそろそろ底をつきそうである。
そういえば、私いつもペットボトルからジュースを飲みながら思うんだけど、ジュースをあおったあとに顔をもとに戻すとき、ジュースの飲み口から唇をはなすべきだよな。そうしないと口からボトルの中に思いっきり唾液が逆流するもの。またはもともと唇をつけずに飲むべきだよな。口の中なんて雑菌だらけだし、そんなのがジュースに入ったら嫌だ。そもそもジュースやスポーツドリンクなんて培養液そのものって感じだし、この暑さだし。他人がそういう飲み方をしているのを見るのもつらいものがある。
というわけで、1.5lのペットボトルでそれを貫徹しようとしているのだが、1.5lは重いね。液体が流れるときの重心変化がポイントだ。

あれあれ? (いったん跨線橋で線路を越えてから)ずっと駅への入口を捜しているのに、工場やら廃棄物処理場やらにふさがれて、全然線路に近づけない。もう駅をすぎてしまった。
うむ。これは最寄りの踏切まで行ったあとスタンドバイミー(線路を歩くこと)に走るしかないようだ。
ただし! 数分ごとに130km/hの特急が通過する北陸本線でやるのは自殺願望としか言いようがないので、一日往復十数本の越美北線の踏切を探すしかなかろう。
運良く、踏切はすぐに見つかった。貨物列車が来ない限り、あと20分は列車は来ない。では線路を歩くとしよう。幸い車が通るだけで人もいないし、駅に線路から立ち入ったところで所詮は無人駅だから。

さて、列車にひかれずにホームにたどり着いたはいいのだが…炎天下にコンクリートのホームと小屋が二つ(写真)。それに下り列車まであと40分もある。
とりあえず小屋に入ってみた。すると風がない。九州と違って日陰なら助かるってわけでもない。これは苦痛だ! 仕方ないので、ジュースを飲んで体を冷やしつつ、風のある炎天下でさっき買った漫画を読むことにした。尻が火傷しているような気もするが、まあ気のせいさ。
では読んでみよ〜

「エイリアンは動物たちを生物兵器にしようとしている。そこで俺達が奴らに対抗するために目を付けたのがレッド・データ・アニマル(絶滅に瀕している動物)だ。彼らは種を保存しようとする力が強い。そのレッド・データ・アニマルの遺伝子を、寄生された動物に打ち込めばエイリアンたちを退治できるはずだ。ちょうどガンの治療にガン細胞を破壊する善玉ウイルスを注入するみたいにな。」
言っちゃ悪いが作者は○○に違いない。だって逆じゃん! 種を保存する力が強かったら絶滅の危機に瀕したりしないよ! 絶対。たぶん「ピンチになって遺伝子が馬鹿力を出してる」といいたいんだろうが、遺伝子が意志を持ってたら大変だ。
私は変なSF設定には目をつぶる主義だけど、最重要の設定が現実と正反対だっていうのはさすがに目をつぶれないぞ。
あんまり関係ない話だけど、以前某番組で「OH! このまま別次元の生命体を侵入させたら、パウリの排他律で我々が消滅してしまいマ〜ス」とかやってたのを思い出すなぁ。当時はそういうもんかと思っていたが(おい)、今から考えるとすっげーこと言ってるよなぁ。俺たちゃ電子か?

熱中症とタブレット〜越美北線〜

はあ、やっと気動車キハ120が来た。本数もかなり少ないローカル線だから、混んでいるとしても都市部を出るまで椅子が埋まる程度だろうなと思っていたら大間違い。車内は肩が触れない程度の満員状態になっている。これは驚きだ。

そして、冷房が利いてない。

これには閉口した。車両が揺れると頭がくらくらしてくる。どうやら炎天下で漫画を読んだせいで熱中症になったようだ(そういえば昨晩ほとんど寝てないし)。ああ、これが熱中症なのね。
線路は(混んでいてよく見えないけど)直線。ずっと直線。田圃の真ん中で、日差しから逃げることもできない。途中駅からも人が乗ってくるが、みなこんな思いをして炎天のホームにいたのだろうか。
市街を出てからすでに数十分が経過。なのに誰も降りない。よってずっと立ちっぱなし。だんだん動悸が激しくなってきて、ときどき意識の底がふっと抜けるようになってきた。
あぁ、これはやばいわ。朦朧としながら考えていた。
そのあとしばらく記憶が飛んで(^^;)越前大野に到着。ここでほとんどの客が下車していった。やっと椅子に座れてほっとしていると、タブレットを持った駅員がやってくる! 運転士も物陰からタブレットを取り出して駅員に渡した。

おおっ、越美北線にはまだタブレット交換が残っていたのかっ。

いわゆる鉄道マニアをやめてからもう9年がたつので、もう木次線が最後かと思っていた私。知識が足りませんでしたな。興奮で頭も一時的にすっきりした。
でもちょっと考えると福井を出てからすでに34kmも来て初めてタブレット交換をしたということは…この34kmがひとつの閉塞区間ということなのか!
なんて長い閉塞区間なんだろう。タブレットは閉塞区間(列車が一編成のみしか入ってはならない区間)の境界を越えるごとに一回交換するわけだから、今まで交換しなかったということは、この34km区間には一編成の列車しか入れないということになる。ということは、対抗列車も交換もなし。信号も必要なし。なのか? (違っていたら教えてください)
時刻表をめくってみると、確かに福井〜越前大野間での交換はない。いやぁ、のどかな話だな。首都圏にたとえると、新宿〜国立間に上下線併せて一編成しか入っちゃいけないというような事態になるわけだ。すごいと思わない?

越前大野をすぎると景色は一変する。盆地の田園を抜けつつ、山に入っていく。そして最後に突然長大なトンネルが出てくる。二つ長いトンネルを抜けると、そこは山間の終着駅、「九頭竜湖」駅であった。
九頭竜湖駅は無人駅。単線の先に車止めがある。降りたのは5人ほどだった。うち私を含めて3人が青春18きっぷ。ここまで列車で来る人はここに済んでいる人か、バスで岐阜県に抜けようとしている人かどちらかだろう。
だんだん青春18きっぷで赤字ローカル線に乗ることに気がとがめてきた。2300円/日なんて、実際にかかる電車賃に比べたらただ同然だもんなぁ。また私なんかを運ぶために軽油を無駄に消費させてしまいました。ごめんなさいJRさん。地球にも申し訳が立ちません。ロマンのためなんです。許してください。

人工の秘境 九頭竜湖

九頭竜湖の駅は無人にも関わらず新しい。駅を降りてすぐに大きな恐竜の像があり、駅と棟続きでなんだかいろいろな建物があった(人はそれほどいない)。
いろいろ興味はあるのだが、ここから岐阜県の美濃白鳥へ接続バスが出ているので、急いでバスに乗り込んだ。小型のJRバスである。このバスで県境の峠(油坂峠)を越えるのだ。
なぜここにJRバスが走っているのか説明しよう。国鉄時代に福井から岐阜へと山を越えて日本を横断する路線(越美線)が計画された。福井側から越美「北」線、岐阜から越美「南」線が建設されたが、直線距離で15kmほどを残し越美北線は九頭竜湖まで、越美南線は北濃までで頓挫。越美北線は越前大野までならけっこう使う人がいるのでJRに引き継がれ、越美南線は「長良川鉄道」として第三セクター化された。
現在はその二線の間を結ぶべくJRバス(一日2.5往復)が走って、福井→岐阜のルートを確保しているのだ。
※越美線の建設ルートとバスが走る九頭竜湖畔ルートは違うので注意。
さて、バスは3人の客(全員青春18きっぷ野郎だ…)をのせて出発。駅を出るとけっこう狭い国道158号線に沿ってどんどん山を登っていく。数分で駅は視界の底に消えた。するとすぐに右手に美しい湖とダムが見えてくる。九頭竜湖と鷲ダムである。実は、九頭竜湖は九頭竜川を堰き止めて作られた人工湖である。この先には九頭竜ダム(発電所)がある。九頭竜湖の広さは大体十和田湖と同じでかなり広い。緑の山に囲まれた青い湖水。たまに紅い吊り橋がかかっていたりしてなかなか美しい。よく見ると、水位がけっこう下がっているようだ。ベージュの地肌が1m弱ぐらいだろうか、見えてしまっている。 この夏の渇水の影響かもしれない。ま、夏になるとふつう、洪水防止のためにダム湖の水位は標準よりも下げるものだから、人為的なものかもしれないけどね。

そして見えてきました九頭竜ダム。バスからだから大きさの実感はないけれどかなり大きいのは確かだ(写真?)。
山道はずっと湖沿いに続いていく。分かれ道はほとんどないけれど、この辺の山道っていうのはすごいよね。いくら細くても、舗装された道路が遙か遠くまで続いているんだから。鉄道ではとてもいけないようなところにも道路を使えばいけるわけで、その中に私の行きたい秘境も多くあるのだが…まあ、今はこの話はいいや。
そして湖を過ぎ、油坂峠越えに入る。この旅行何回目の峠越えになるだろうか。わざと幹線ルートをはずして旅行しているから峠越えばかりだ。バスの乗り心地は悪い方で、かなり振動する。道のせいだろう。対向車は少なく、歩行者はずっとゼロ。バス停は20以上あったが、誰も降りなかったし誰も乗らなかった。そもそも人がいない。人家もなし。峠の気温は32度Cであった。

峠を越えると、国道にからみつくように左右のループを描く大きな高架が見えてくる。東海北陸自動車道だ。これは南側は越美南線のルート、北側はそれを(途中ちょっと曲がるけど)ほぼまっすぐ富山県へのばして砺波平野へ抜ける計画の自動車道。これを書いている時点ではまだ南北がつながっていないが、まあ、つながるのは時間の問題だろう。
東海北陸自動車道は国道と違って山肌をジグザグに這ったりしない。山肌に沿っていくのは確かだが、巨大な橋とトンネルを使って新幹線のごとく強引に山々を貫いていく。日本の建設技術はすごいものである。特にこの高速道路は平成になってから作られたもので、山里に異様な雰囲気を添えていた。

さて、遙か小さく見える白鳥[しろとり]の盆地へとバスは一気に降りていく。国道からそれて、すごい急勾配の細い道をうねうねと下って白鳥市街に入った。

意外なことに(いつも失礼だな)、この街は今までの山間の街と比べものにならないほど大きい。とはいってもいわゆる地方都市のように中心部に大きなビルが建っているとかそういうのではなく、平屋〜二階建てぐらいの商店が昔ながらの町並みを形成しつつ、それなりに広いエリアをカバーしている。飛騨にはこういういい感じの街が多く存在するが、そんな雰囲気がすこし漂っていた。
終点美濃白鳥駅前で下車した。結局誰も乗降せずにノンストップで来たのでさっきの3人が降りた。それだけ。
なんだか悪いとは思いつつ、運転手に「いつもはどのくらいお客さんが乗るんですか?」と訊いてみた。

運転手「いつもはゼロですよ。この路線はね、仕方なく走ってるだけですよ。今年いっぱいで廃止ですから」

そうなのである。この福井→岐阜の峠越えJRバスは今年2001年の11月30日で廃止が決定しているのだ。風光明媚な湖の景観をゆっくり楽しめるバスも今年限り。マイカーとはひと味違う風情を味わえるのは今のうちだ。みんな行こう!

白鳥から大垣へ〜清流ふたたび

白鳥の町は「白鳥高原」の中心地。峠は32度だったのにここは37度もある。高原だから日差しも余計に強く、たちが悪い。また熱中症にはなりたくないものだ。
電車までしばらく時間があるので町を歩いてみた。生活に最低限必要な店のみならず、喫茶店、駄菓子屋、飲食店、自転車店、帽子屋などいろんな店が軒を連ねている。そのひとつひとつが高度成長以前の風情を残している感じで、なんとも心がなごむ。

…なごむのはいいけど、37度は耐えられん。

本屋に逃げ込むと、地元のガキどもが座り込んで雑誌や漫画を読んでいる。店主黙認らしい。本の品揃えを見ると…
けっこうよい。流行や人気作などをしっかりリサーチしてあり、続刊ものはきっちり本棚に全巻1冊ずつ並べてある。田舎の本屋らしからぬ管理の行き届きようである。なんでもインターネットを利用して人気作品の情報を仕入れて、問屋に注文を出しているとのこと。岐阜からローカル線で2時間近くかかるこの地でも、予約すればどんな本も2日程度でそろえると豪語していた。ビバインターネットってか?

ふう。一通り見たか。では駅へ戻ろう。まだ発車まで時間がある。この駅は比較的大きく、売店もあれば自動券売機もある。長良川鉄道のみならず、JR・名鉄などのバスの切符まで自動券売機で買えるらしい。
待合室に本棚を発見。見てみると…少女漫画とレディコミ雑誌しかないか。うむ。では少女漫画にしよう。ふ○ぎ遊戯と怪盗セイントテ○ルの全巻。よくそろってるな。
うむ。ではふし○遊戯に決定。テレビの方は知ってるんだけどね。原作はテンポがよくて不自然があんまりないですな。30分ほど読みふける。5巻を一冊読みおえたところで列車が来た。長良川鉄道の新型車両である。第三セクターは発足時のレールバスを延々と使い続けるところが多いけど、ここは新型のレールバスを何両も導入している。それなりの乗降客もあるのだろう。

ここから目的地の関まで26駅、54kmもある。まだ上流の長良川に沿ってレールバスはずーっと走っていく。長良川では釣りをする人々、泳ぐ人々を時たま見かける。ここら辺では川幅も狭く、底まではっきり見える。魚の姿まではっきり見えそうな清流である。
車両は単行でロングシート。ふと路線図を見ると…!!(写真)

長良川鉄道「越美南線」としっかり書いてある!!

第三セクターの長良川鉄道になって越美南線の名は消え、国鉄時代の面影などあまり残っていない(駅舎とかホームとかはそのままが多いけど)と思っていた矢先、思わず目頭が熱くなった。
途中から幼い3姉妹をつれた母親が乗ってきた。下から2歳,4歳,6歳って感じかなぁ。私の前の席に座っているんだが、こいつらが何とも可愛い。上の子が母親にまとわりついて中の子と遊び、中の子はしょっちゅう靴を脱いだり履いたりしてて、一番下の子は母親の後ろから片目だけでこちらを見つめてくる。見ていると思わず顔がふぬけて思わず微笑んでしまう。周囲から見ればただ幼女を見てでれでれ笑ってる怪しい男なのかも。それはいやだな。
しっかし余計な感情抜きで可愛い子供である。私は子供があまり好きでないが、頬笑ましさに負けたというか、なんというか。
旅先で会う子供と、旅路がたまたま一緒になった子供っていうのは煩わしさ加減が違うような気がする。旅先で会う子供は被写体みたいなもので風景の一部だから、無邪気に遊んでいる姿がかわいらしく見える。旅路が一緒になると、「こんないい風景を見ずに何でベイブレードやってんだよ」とか、「人がいい気持ちで読書してるのにきゃーきゃーうるさい」とか、いらだってばっかりで。私自身、昔から鉄道で旅行することには思い入れがあって、旅行中にまで普段の遊びをしたがる子供の気持ちはよく分からない。
何しろ俺は5歳で東京都内地下鉄全線完乗、7歳で24系25形を毎日愛でるようになり、9歳のとき廃止寸前の足尾線でキハ40の魅力にとりつかれ、その後ひとりで計画を立てては「ロマンを求めて」只見線や釜石線、飯田線、水郡線へと祖父を連れ回し、そんな中で旅情を壊しやがったキハ110を憎み、愛読書は時刻表とCQ出版社の電子工学書とかいう嫌なガキだったので。つーかマジで嫌なガキだ。
まあ、それでも鉄道マニアは12歳できっぱりやめたんです。だから、この雑記帳に出てくるような鉄道話も、当時の知識のごくごく一部が残っている中から引っ張り出しているだけですわ。…信じてくれる?

お、そろそろ関に到着。もう午後6時になる。今朝4時半から活動しているから、もう今日だけで13時間半も旅していることになる。
関の駅はことのほか小さい無人駅。駅前も電話ボックスぐらいしか印象に残らなかった。「美濃特産、関の刃物」とかいって受験勉強で覚えたっけ。
ここから、名鉄美濃町線に乗り換えて、新岐阜へと向かう。
本当は長良川鉄道でそのまま美濃太田へ出て高山本線で岐阜へ出るのが普通の人のやり方なんだが、この名鉄美濃町線というのがまた激しくロマンにあふれた(意味不明)電車なので、問答無用で利用する!

写真を見てくれ!

ね、可愛いでしょう。問答無用でしょ。

関駅を発車すると、かなりの低速でゆっくりとカーブを曲がっていく。橋を渡るとすぐに新関駅。ここが美濃町線のメインの発着駅である。関まで来るのは1時間に1本程度しかない。
新関の駅を出ると、ポイントがあって単線になった。
ここではっと気づく。路面電車はふつう複線を走るもの。 そこまではっきりしたダイヤや、コンピュータ制御の信号システムが路面電車に導入できるわけもない(意外とダイヤはしっかりしているということはあとで分かった)。そして単線。
だとすると!!!
答えは一つ。路面電車同士でタブレット交換するに違いないっ!!
もし本当なら珍しいよな。タブレット交換する路面電車。 駅が近づくと胸が高鳴る(マニア心ですなあ)。
そして、運命の瞬間はやってきた! (写真) やはり! タブレット交換する運転士。電車は駅で無事交換した。
電車は時には車道を、時には土の道を、時には田圃の中の専用軌道を、激しくがたがた揺れながらリズミカルに走っていく。電車に乗っている人は、学生も、OLも、サラリーマンもみんな同じリズムで大きく跳ね上げられ、沈む。振幅10cmぐらいあったんじゃないかな。女子大生の一人が揺られながら楽しそうに笑い出すと、その雰囲気が伝わってきた。みんなで一緒に跳ねるのはなんだかとても楽しい。トランポリンでもやってる気分。
そして、タブレット交換のペースはなかなか激しい。それほどの本数ではないにしても、長距離列車より路面電車の方が本数が多いのは当たり前。交換できる駅ではほぼすべて交換し、そのたびにタブレットを交換するのだ。いいものを見せてもらったよ、ほんとに。

そうこうするうちに、岐阜市街に近づいてきた。そこで再び私は度肝を抜かれることになる。
なんとなんと、路面電車の美濃町線が、近郊電車の名鉄各務原[かがみはら]線の線路に入っていくではないか! 東京にたとえると、東急世田谷線(路面電車)が突然三軒茶屋から東急田園都市線に乗り入れて渋谷へ走りはじめたようなものだ。これは驚くよね?(地元ネタでごめんなさい)

だってさあ、そもそも路面電車と通勤電車じゃホームの高さが違うじゃないか。さっきの福井電鉄みたいに路面をでっかい電車が走るならステップを出せばいいけど、でっかい電車のための線路を路面電車が走るときには降りられないんじゃないか? 困惑する私。
電車は田神駅に到着した。ホームは路面電車の窓ほどの高さである。すると、そのホームを素通りした先に、高さを路面電車用に低くしたホームがあった。そうかそうか、一本のホームの両端の高さを通勤電車用/路面電車用に別々にしているのか。わざわざそこまで!

そして電車は新岐阜の駅に入っていった。駅に入る前にポイントがあって、各務原線とは別のホームに到着した。さすがに終着駅は分けてあるらしい。
どうも私は名鉄や名古屋地下鉄には詳しくなくてね。地元の人が読んだら「なに当たり前のことに驚愕してるんだ」とか思われるかもしれないな。呵々。

知る人ぞ知る東海道線、美濃赤坂線

東海道線といえば、東京と京都を結ぶ幹線。終着駅は当然東京と京都…というのは常識だろう(←大阪じゃないぞ)。しかし、東海道線にはもう一つの終着駅がある。それが美濃赤坂、小さな無人駅である。大垣から出て美濃赤坂へと向かう単線の支線を、美濃赤坂線と呼ぶ。
美濃赤坂駅には本当は職員がいる。しかし、客の相手をするための職員ではない。だから実質無人駅。
さすがに支線だけあって、本数は少なく、運転されている車両も2両編成の313系。岐阜から快速で大垣に到着した私は、しばらくロッテリアで発車時刻まで時間をつぶした(大垣の町は祭りで混んでいて、大荷物を背負って歩き回る気にはならなかった)。
ホームの先にある、普段は米原行きが来る場所。そこに2両の列車が止まっている。席が埋まる程度の乗客がいた。大垣を出るとしばらくは東海道線の本線を走っていく。313系は新快速(とか^^;)用に開発された形式で、130km/hでの安定走行が可能。軽やかで乗り心地もよい。
と、途中で速度をぐっと落とし、本線から右にそれる。ここからはゆっくり支線を走る。まもなく荒尾駅に着いた。ここはまだ住宅街の中で、多くの人がここで下車した。次はもう、終点の美濃赤坂である。片面一本のホームに到着、乗務員に切符を見せて下車した。小さな木造駅舎で、待合室も味がある。駅の入り口には木の板に墨で書いた「美濃赤坂」の文字が。おおかた味気ない東海道線の駅の中で、この風情はぐっと来るものがある。

折り返し発車までしばらく時間があるので、駅の外を歩いてみる。が…駅前の電灯以外ほとんど電灯がなくて、8時半をまわった今では歩くとすぐに闇に入ってしまう。それに駅構内は異様に広く、真っ暗な空間となっている。貨物のためのスペースである。それもそのはず、美濃赤坂支線は「西濃鉄道」という貨物線の一部なのである。旅客を扱っているのは美濃赤坂までで、東海道線はこの駅のレールエンドでおしまいなのだが、貨物線は二手に分かれて続いている。主に、運んでいるのは石灰。このあたりの山を掘ると石灰岩や大理石が出てくるようだ。

ちなみに、熱心な美濃赤坂線ファンは多くいる。
美濃赤坂線のサイト
美濃赤坂線のサイト(for J-sky)

一路、東京へ

大垣に戻り、東京行きのホームへ。まだ発車まで2時間近くあるが、東京行きの臨時夜行列車でしっかり席を確保するためである。なぜ「ムーンライトながら」に乗らないのか? と諸兄は聞くかもしれない。

きっぱり言おう、ムーンライトながらは漢らしくないからだ。

予約をとって指定席、新快速のような車両、リクライニングシート、乗り心地も上々。
ああ、なんとつまらないのだろう。やはり寝台列車でないと、予約していつもと違った雰囲気の列車に乗るドキドキがない。だからといって、ムーンライトえちごのような可愛い165系に乗れるわけでもない。乗れるのは所詮新快速もどきのつまらない新車両なのよ。大垣夜行は、各駅停車が数百キロもの長距離を走るからこそロマンがある、特別なものなのだよ。だから、乗れる車両は「各駅停車っぽい」車両でないと全っ然おもしろくないわけ。
シーズンオフだと、「ムーンライトながら」しか走らなくなっているから、「大垣夜行」のロマンはすでに失われてしまったといってもいい。ただ、シーズン中だけは「ムーンライトながら」の補完用に昔ながらの大垣夜行(165系+167系)が臨時列車として復活する。

ということで、この「臨時大垣夜行」は、「ムーンライトながら」の切符をとれるチャンスを蹴ってまであえて乗りたい列車なのである。

読んでる人の中に反論したい人はたくさんいるだろうねぇ。あまのじゃくなことをあえて書いてるんだけどね。でも鉄道好きとしての正直な気持ちなんですわ。

さて、ホームでリュックを枕に仮眠。さすがに昨日は徹夜だったから、あっという間に夢の中。

ふっと目を覚ますと、お目当ての車両が入線してくる瞬間であった。なかなかタイミング良く起きるものである。編成は165系と167系(どちらも幹線用の急行形として開発された、電化区間版キハ58系のような車両だ)を適当にちゃんぽんでつなげてある。単位編成ごとというわけでもなく、165系のMM'ユニットにクハ167をつけたりして、適当に組んである。これはこれで可愛いね(意味分からない人は読み飛ばしてくれ!)。
席を確保したあとはあまり覚えていない。窓に寄りかかって、すぐに眠りに落ちた。明日の朝には東京に着く。