8/18 生命の森へ〜縄文杉トレッキング〜
今日のコース。 |
今日のコース(高低差)。 |
4時前に起床。さて。今日は台風が来ている。昨日はレクチャーのお兄さんに「トロッコの線路を歩いているとき、雷が線路に落ちると線路に沿って火柱が立つから、雷が来たら線路を踏まずに歩くように」という特殊なアドバイスを受けた、というか脅かされたので、台風の雨の様子が気になる。4:15にユースの前に集合。暗いが18名みんな来ているようである。バス停までの道は懐中電灯で照らさなければ何も見えない。この島は人間の生活する道路から一歩外れれば鬱蒼とした原始林と亜熱帯植物の藪、特に日が沈んでしまうとどうしようもないな。
荒川登山口への路線バスが4:30頃来た。バスはユースからもう少し西の集落、栗生(くりお)から出ているのだが誰も乗っていなかった。登山客が乗ってくる可能性のあるバス停以外は実質的に全部通過して、安房(あんぼう)の街を目指す。ちなみに、鹿児島・屋久島・種子島の観光をすべて仕切っている「いわさきグループ」というグループ企業がある。屋久島バスもその1つで、その関係上バス路線が「いわさきホテル」という山の上のリゾートホテルを通っている。いわさきホテルは自前で登山口へのバスを運行しているので敢えて路線バスが行く必要がないのに、グループ企業のしがらみでバスは延々とホテルへの細い山道を登り、ホテルが用意したバスの方に宿泊客が乗っていくのを横目に見て、そして誰も乗せずに山を降りてくる。アホだ。
安房にある「盛久神社」からガイドが3人乗ってきた。30ぐらいの人と、老人と息子のペアで3人とも屈強な感じだった。バスはここから山道に入り、登山口へ20km近く登っていく。この道と外側を一周する県道は、屋久島の観光道路として非常によく整備され、路面もほとんど凹凸がなく安定している。道は最初高速コーナーの連続で、かなりの勢いで高度を上げていった。途中から道は一車線になる。おいおい、こんな道をバスが走るのか。山を走るバスはいつ乗っても本当にすごいと思うのだが、ここ屋久島のバスも夜明け前の雲の中、1車線の狭路を難なくすいすいと登っていった。「屋久杉自然館」だったか、最後の観光施設を過ぎてから登山口までバス停は「荒川三叉路」1つ。この区間は長かった。登山口は先日の台風で道が崩落した(!)せいでバスが最後まで入れない(一般車は2004/8現在荒川三叉路から先進入禁止)。バスは登山口の数百m手前で止まり、我々は降ろされた。先の登山口へ気持ちがはやる一方、「このバスはどこで転回して帰るんだろう?」「他のホテルから登ってくるバスとはどこですれ違うんだろう?」というのが気になった。登山口なら転回のしようもあるけど、現在の終点はここ、1車線道路の途中だからねぇ。
路肩崩落した登山口。手ぶれ。 |
さて、登山口で朝食と夕食の弁当セットを配られた。現在朝6:00。弁当の蓋を開けると…朝から幕の内弁当かよ…(--;。ま、栄養つけなきゃ山には登れないけどさ。朝6時からエビフライと塩鮭と固めのごはんはあんまり見たくないなぁ。仕方ないので胃に押し込む。横を見ると山から猿(ヤクザル)が降りてきて人を威嚇していた。ガイドの爺さんが「餌を絶対与えるな」「近寄るな」と注意しつつ、手近なものを投げつけて追い払った。観光客のイメージとは裏腹に、この島でよく出るヤクザルやヤクジカを人は避け、時には狩る。特に猿は農作物などの害獣で、観光客が「かわいい」といって餌を与えるせいで人間が猿に「なめられる」のを地元の人はとても嫌がる。確かに可愛いんだけど。
ここは標高600m, 湿気の多い屋久島ではすでに雲の中だ。雨も多少降ってきたので最初から雨具を着込み、準備体操をして出発した。トロッコの車庫があり、L型のディーゼル機関車とトロッコが止まっていた。ふふふ、森林鉄道だ。いいなぁ。実にいい。ここから762mmの軌道の間を少しずつ登っていく。巨大な花崗岩の間を夥しい水量の急流が流れる上を鉄橋で渡り、トンネルをくぐり、深い谷の上を崖に貼り付くように線路が続いていた。
勾配は1%程度だろうか。たまに木橋の渡し板に穴が開いていたり枕木の間に落とし穴があったりするので注意だ。こんな穴なら落ちることはあまりないかもしれないが、足をはめて転んだらテコの原理で足の骨がぼきっと折れそうなのが怖い。なのでみんな前の人のリュックと足元ばかり見て言葉少なに歩く。その姿はどこかへ連行される囚人たちのようだ。もうちょっと周りを見たいんだけどな。
川を鉄橋や木橋で渡るたびに、その向こうにある森が見える。森の中は暗く、鬱蒼とした大木が視界を阻む。小一時間谷間を歩いたところで立派な橋を渡り、小杉谷の集落跡に着いた。ここは島で杉の伐採が行われていた当時(今は伐採禁止)、その前線としての役割を担っていた場所であった。集落への交通手段はこのトロッコしかなかったらしい。すごい話だ。狭いながらも山に校庭を切り開いた小学校の跡があり、そこで休憩した。
ここからは森の中の登りになる。標高が高くなると杉林に屋久杉がまじりはじめる(屋久島に生えている杉=屋久杉ではない。樹齢1000年以上などの条件がある)。巨大な切り株や倒木、その上に新しく生えた若木などについてガイドが説明していた。何世代にもわたって命が受け継がれていく様子が感じられる。
小雨の中線路の上を歩き続ける。10時近くなってもなお森は暗く、カメラでうまく撮れない。フラッシュをたくと前一列の木しか写らず、露出を長くしてゆっくり撮ろうとすると一列になって歩いているので後ろがつかえる。しかもぶれる。深い森の向こうに親子の鹿がいた。
トロッコ道は「大株歩道入口」で終わりになった。終点に2階建ての水洗トイレ(1階は循環施設)がある。なかなかびっくりだ。トロッコで資材を持ってきて最近建てたらしい。汚水を濾過して薬品を混ぜ、循環させて便器を洗浄するようにして、人がこまめに汲み取らなくても水洗便所として使えるようにしてあるらしい。この時期は人が多いので、洗浄水がけっこうアンモニア臭かった。まぁ、山小屋の汲み取り便所より100倍マシな施設である。びっくり。
ここから終点の縄文杉までは2.8kmしかない。整備された登山道(大株歩道)を歩いていけばほどなく着くのか…と思ったがそうでもない。整備されているとはいっても、手足を使わないと登れないところも多いし、岩が滑って神経を使う。結局時速1km強になってしまう。
上の切り株を外から見る。下の人と比べてみよう。 |
この2.8kmで縄文杉のある高塚小屋付近(標高1300m)まで登るので、植生も変わってくる。周囲は名もない古木や大樹に囲まれ、時おりウィルソン株、翁杉、夫婦杉、大王杉といった有名な杉が出てくる。杉もさることながら、この登山道での見どころは森の力だろう。ちょうど雨のあとということもあり、コケやシダや若木が雫をたたえ、実に生き生きとしている。屋久島のコケに魅せられてやってくる人もいると聞くが、それも分かる気がする。じめじめしているのに心地いい。
弁当を食べたりしながらたんたんと歩いて、その先に縄文杉はあった。確かに大きくてお化けのようだが、さっきから巨木ばかり見ていて感覚が麻痺しているので一番かどうかはよく分からない。さっきの大王杉を見たときの方がインパクトは大きかった気もするけど…
シーズンということもあるが、人が大すぎだ。後からもどんどん登ってくるので縄文杉のあたりで写真を撮ったりするのを早めに切り上げ、帰路についた。帰りは速いかというとそんなことは全然ない。むしろ、谷側に傾いて濡れた岩の上や、急峻な道を滑らずにおりていくのが怖い。ガイドの後ろを歩いていると、彼らが足を置く場所はだいたい滑らないことに気付く。やはりプロだ。ライン取り(?)を真似しながら歩いた。何回か滑って冷やっとしたけれども、転ばずに済んだ。
トロッコ道に戻ってきたときにはもう2時頃。歩きはじめてからすでに8時間もたっていたのか。
スタンドバイミー再開。線路の上歩くのって楽だなぁ。膝をろくに使わずに歩けるよ…とか思っていたら、途中ショートカットするために一部山道を通るところでみんな膝に力が入らず、転びそうになっていた。危ない。
植生も変わり、巨木が少なくなってきたあたりでひとやすみしているとき、くさむらに入っていった子供にガイドが「そっちは入らない方がいいぞ。マムシとヒルがいるから」と言った。長い登山道だが、ガイドは危険ポイントを細かに記憶しているらしい。まぁ、そりゃそうか…
また数十分歩いて小杉谷集落跡へ戻ってきた。休憩していたら、ガイドの爺さんがさっきの子を見て
「あ、ヒルがついてる」
1cmぐらいの小さなヒルはシャクトリムシのように逃げようとしていたが、ガイドにつぶされた。その子の腹を見ると、へその周りが血だらけになってかたまった跡があった。一瞬ヒルがへその周りにびっしりついているのかと思って戦慄したが、そうではなかったようだ。どっちにしても気持ちのいいビジュアルじゃないけども。
さて、あとは戻ってこられたことを山の祠の神に感謝して(行きにも手を合わせた)、登山口まで数十分歩くだけ。足はだいぶ疲れていたが、大して苦労することもなく帰ってくることができた。午後は天気が大して崩れなかったのは幸いだった。
〜なんかいつもの旅行みたいにしょうもないハプニングが起こるのを期待して読んでくれる人には申し訳ないのですが、今日の旅行では起きませんでした。あしからず(^^
登山口で整理体操をし17:00発のバスに乗って、あとはユースまで行くだけ。バスの運転手にとってはこれからが狭路・峠越えの正念場(?)なのだが、我々はもうへたれて寝るだけだ。
行きのバスで一緒だった女の子が、明後日レンタサイクルで島を一周するらしい。我々も明後日は一周しようともくろんでいる。一緒に行けたらいいな。
夜は地元の焼酎「三岳」で乾杯。飲みやすい藷焼酎(25%)だが、あまり酔いがまわらない。
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